詩人

やなせ・たかし
この人は、きっとアンパンマンの作者として
特に若い世代の人は、知ってる


私が知ってる、やなせは詩人


紫の川


その絵の川は紫色にぬってあった
子供ごころにぼくはおもった
なんといううそつきの画家だろう
紫色の川があるだろうか
この絵の川は美しすぎる
でもなぜかしら
その絵の川は
おさないぼくの心にしみた


中学生になったとき
夕暮れの河原であそんでいて
ふと眼をあげて見たとたん
背筋に熱いせんりつがはしった
いままでさりげなかった川の色は
一瞬の残光にてらされて
この世のものともおもえない
妖しげな紫に輝いている
あの絵の色と、おんなじに
あの絵の色と、おんなじに


とうとうぼくは泣き出した
そして、その時決心した
どうしても画家になるのだと
一瞬の紫をさがしたいと


この詩を読んだのは、確か中学生
つい、先日読み返すまで
紫に輝いたのは、川でなく海だとなぜか
まちがって覚えていた
いいえ、まちがったのではなく
高校生のある日、ふらっとよった
逗子の海が、紫に見えたのだ
詩人のようには感動できなかったが
心がじんわり、満ち足りたのは覚えている
そのじんわり具合、正確ではないかもしれないが
ずっと、ずっと心に残って
すこーしだけだけど、いまも私のこころの
片隅には、残ってるように、思う


凡人はアーティストの導きというか助けを
借りて、風景やら、色のそれこそ
輝きというのを、知ることが多いようです
でもそうして少しでも感じれるような、やわらかな
心をもっていたい、ううん、もっていよう