山下大五郎

生誕100年、没後20年という美術展を
長野県の安曇野、池田町にて見る


このかたは、私からしたら、祖父の世代といっていいのかも
しれない
太平洋戦争に、従軍して、カスピ海のほとりに3年抑留され
帰国したときは、妻は病臥に、子供はやせ衰えていたとでてきた
その姿を書いた絵があるのだが、帰国後8年たって描いたという
そして、1963年、ちょうど、私が生まれた歳なのだが
その頃まで、いわば「灰色の時代」が彼の絵の世界で続く


「戦後」という言葉はもう聞かれない
いつだったか、「もう戦後ではない」という言い方で
ひとつの時代の節目を表したコラムとかがあったと思う


日本人だけでも百万人単位の人がなくなって、国土が焼かれて
産業もずたずたになった戦争
そのことを、いい意味で忘れるのは大事だけど
事実としてあったことまで、伏せられるのは、いただけないのだろう
山下は、画業において、自分で描けることを描いた、生き方そのものの
画業ゆえに、まさにそうなのだろう


1964年のオリンピックのあった年あたりから、絵がやっと
明るい色を帯びる
子供の姿であったり、百年以上たった、民家であったり
戦争と関係なく日本にある、たくましさ、明るさといった価値
そのことに、目を開かれていく様子がわかる


そして、日本全国を取材して、描き続ける画家が
70代をすぎて、出会ったという「安曇野」とりわけ
この展覧会が開かれている、池田町の高台で描かれたという
シリーズ
色がやさしいのだ、そして、田んぼがいとおしい、いとおしく描かれている
光がうれしいのだ
有明山をなんども書いている
その風景を目の前にして
有明山にむかって車で走ってみた


山下の、画業が親たちがかけぬけた、昭和の20年代、30年代そして
40年代、50年代という時代を、振り返らせてくれた
貴重な時間だった