日本の美しさを追う

二十数年前、大学のゼミの仲間で、先生を囲んで箱根に
遊んだことがあった
あいにくの、小雨模様の天気だった
先生は、山の斜面の木々をみて
霧とも、雨ともつかぬグレイなふわふわとしたものが
木の緑の色をグラデーションで消え入るように
見せているのを、美しいといった


先生は、その頃、自分の専門のことでない
いわば、エッセイのような本を書きたいと言っておられ
「色」をテーマにできないかとおっしゃっていた


いま読んでる、東山魁夷の講演録
ちょうど、唐招提寺の障壁画を書き終えたところでの
講演を読んでいて
日本は、海と山の美しい、すばらしい国だと
1200年前、鑑真和上が12年という苦難のときを
超えて、日本にきたということは、なんて大きな
なんて、すごいことでしょうかと
その鑑真和上のたましいにささげる、絵として
日本の海と山の美しさを表現できたらと思って
描いたという


山のイメージを作る、中心的な場所として
奥飛騨の天生峠をあげている


山道にさしかかる頃、雨が止んで谿から霧が
舞い上がってきた。道は曲がりくねって峠へと
登っている。谿をはさんで遠近の峰が瞬く間に現れ、
消え去る。山肌を這い上がる雲烟による千変万化の姿と
近景の樹葉の濃淡の彩り


こうして引用すると、恥ずかしながら、自分の語彙の
貧困なことに気づかされるが、東山は
こうした、風景をいわば、「この景観を描け」と虚空の
どこからか無言の声がしたと表現してる


自分の感動を仕事につなげてるということを、まず
すごいなと、拍手を送って、あやかりたいと思う
大仕事には、強い自分の意志ということを超えた
いわば、「導き」によってこそ、やりとげることが
できると、東山はいう。いいえそこに到達するまでの
精神力があってこそだと思うけど、いずれにせよ
「自分」という「枠」「殻」をうちやぶって
「無」というものに近づいてこそなのだと
東山は、言ってる


日本の美しさを、表現する。このことに生涯をかけるのが
画家だ。それでは、自分は生涯をかけて、何をしたら
いいだろう